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柏市で市内の清掃工場で出た焼却灰から7万Bq/kgを検出。Cs汚染の長期サイクル化の可能性も。


柏市で市内の清掃工場で出た焼却灰から7万Bq/kgを検出。Cs汚染の長期サイクル化の可能性も。

 7月11日、各マスコミで自分が居住する柏市の清掃工場から排出された焼却灰から1キロあたり7万ベクレルを越える放射性セシウムが検出されたと報じられた。
 市のHP http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080100/p008818.html によると、市に2か所ある清掃工場及び最終処分場の焼却灰(飛灰固化物・溶解飛灰固化物)から国の定める8千Bq/kgを越える放射性セシウム(Cs134及びCs137の合計)が検出され、第二清掃工場に至っては溶解飛灰固化物から7万Bq/kgを越える放射性セシウムが検出されたと報じている。

 HPにある報告書を更に詳細に読むと、6月22日の段階で最終処理場の溶解飛灰埋立区域内で地表5cmで最大9.8μSv/hの空間放射線量が検出され、その結果を受け各清掃工場の焼却灰の測定を実施したとのことである。この最初の6月22日の試験的測定は5月15日に環境省所轄「災害廃棄物安全評価検討会」による会合を受けての実施であり、政府・行政側は放射線物質汚染地域のゴミ焼却により焼却灰より高濃度の放射性物質が検出されるであろうかとを見越していたと思われ、柏市以外でもホットスポットと呼ばれる地域においては同種の問題を抱えていると思われる(東京都における下水汚泥汚染に関しては6月24日に都議会において民主党議員からの質疑において明らかにされている)。

 当然の事ながら焼却灰に基準値の約9倍にあたる放射性セシウムが検出された以上、その焼却過程で排出される排ガスによる放射性セシウムの再拡散の恐れが心配される。このことに関して市側の報告では各施設の敷地境界付近で測定した空間放出線量は、0.25~0.49μSv/hと、それ以前に測定した東葛6市の空間放射線量の測定結果である0.30~0.44μSv/hと変わらず、また排ガスそのもの鑑定を民間(島津テクノリサーチ)に委託し測定したところ、排ガスから放射性セシウムは「不検出」との回答を得たとしている。

 しかしこの回答には疑問が残る。日本鉱物科学会の報告(赤井純治氏)によると有機物・微生物に取りこまれたセシウムは焼却により確実に排ガス中に放出され(有機物・微生物に取りこまれたセシウムは有機物・微生物の燃焼と共に沸点671度でガス化する。通常ゴミ焼却炉ではダイオキシン対策のため焼却温度を800度以上としている)、更に微細な粘土鉱物自体に付着したセシウムも飛散する可能性があるとしている(セシウム挙動の4つのステップ)。その場合セシウム汚染が表層環境で長期にわたりリサイクルして継続する恐れもあると警告している。

 柏市の清掃工場の構造を見ると、旧式の北部クリーンセンターでは標準的なろ過式の集じん器による排ガスの飛灰の集灰・クリーニングを行っており、南部クリーニングセンターでは溶解炉排ガス集じん機による飛灰の集灰・クリーニングを行っている。こうした飛灰の集灰・クリーニング方法の違いにより両工場での飛灰固形物と溶解飛灰固化物における放射性セシウムの検出量の違いが出たのであるとするならば、北部クリーンセンターではその分放射性セシウムの空中への再放出がなされた可能性が極めて高いのではないだろうか。
 
 排ガス中の放射性セシウムの検出方法にも疑問が残る。市の資料によれば放射性セシウムの採取媒体として、円筒ろ紙、ドレン部、活性炭フィルタのそれぞれから採取、測定したといている。しかしこれらの採取媒体では放射性セシウムの採取媒体として不適切ではないだろうか。セシウムの吸着媒体として適切なものは沸石や粘土鉱物であり、これらを採取媒体として使用せずに適切な放射性セシウムの採取は行えないのではないだろうかと思える。そもそも市内の清掃工場はこうした放射性物質に汚染されたゴミの焼却を想定して作られているわけではなく、原子力施設排気フィルタとして使用されているHEPAフィルタなどを使用しない限り放射性セシウムの空中への再拡散は防ぎくれないのではないだろうか。
 更に市の資料では直接排ガスの測定を行った記録は掲載されていない。原子力委員会の方は1分あたり50リットルの吸引を1週間行い測定する指針が出されているが、市の資料では各工場とも一日のみ上記のような測定方法による測定で不検出と結論づけられている。
 
 またこうした環境下で作業を行う清掃労働者の被曝も心配である。この件に関しては市のHPでは全く触れられていないので市の担当課に直接問い合わせたところ、マスク、帽子と簡易な防護服?を着用し、作業後は徹底してシャワーによる洗浄を指導していると回答してきたが、蓄積放射線量のモニター等の対策は一切取られていないようだった。先の様な着衣であれば、通常の焼却場における作業員の着衣と全く変わらず、それによりこれほど高濃度の放射性セシウムが検出される作業場においてどれほどの効果が期待できるのか甚だ疑問である。

 何れにせよ採取方法の問題点を含め再度市側へ詳細な説明を協力的な市議員と共に求めて行く必要がありそうだ。東葛6市の空間放射線量の測定結果である0.30~0.44μSv/hという高い空間放射線量も、既に「セシウム汚染が表層環境で長期にわたりリサイクルして継続」した結果によるのかも知れない。昨日(7月15日)に報道された柏市の隣接市である野田市の堆肥センターで2千Bq/kg以上の放射性物質を検出されたとの報道と併せ考えると、ホットスポットエリアでの表層環境で長期にわたる放射性物質の汚染のリサイクルが開始していると考える方が妥当だろう。

山本隆三(富士常葉大学教授)『「原発なしで電力は賄える』」は本当かへの反論


 山本隆三(富士常葉大学教授)なる学者が7月6日付けの”nikkei BP net”で「『「原発なしで電力は賄える』」は本当か」というタイトルで、「週刊朝日」6月10日掲載の広瀬隆氏『「原発全廃」でも電力不足は起きない!』への反論を試みている。

http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110704/106784/
 
 発売後一ヶ月も経って今頃何故と思いながら読み進めたが、読み終えて漸くその疑問は氷解した。それだけ先の広瀬氏の主張が浸透し、東電を先頭とする電力各社の「原発が無いと電気が足りなくなる」というキャンペーンの欺瞞性が社会的に認知され始めた事に対する「原発推進派」の焦りに満ちた反論がこれである。
 
 簡単に内容を見てみよう。

・電力需要はどこまで減らせるか
東電が今年の最大電力需要を5500万kWとしていることから、家庭・企業の節電対応もありこれを越える事は無いだろうということは、東電資料が根拠となっているので山本氏も同意している。その上で復興が進む来年以降は6000万kWを越えるとする。

・設備があっても100%の供給はできない
その上で復興が進み電力需要が増す来年以降は、原発以外の水力、火力などの既存の代替手段によってはその需要を満たす事は出来ない、何故なら設備能力と実際に可能な発電量は異なるからと結論付ける。

・卸電力に含まれる原子力の発電
更に山本氏は東電がピーク時に他社から貰い受ける卸電力の中約20%が他社の「原発」による発電によるもので、結論として火力・水力・他社電力の全てにおいて広瀬氏の主張が成立しないかとがわかったと結んでいる。

・発送電分離で供給は増えるのか
更に続けて山本氏は広瀬氏のポジティブな主張としている「発送電分離」に対しても、反論らしき事を試みている。「既に送電については託送制度が導入され、競争力のあるコストで発電できる事業者は卸供給事業などに参入しているだろう。発送電を分離すれば、送電コストが下がるから、新規参入が増えるとの主張があるかもしれないが、発送電を分離すると、逆に送電コストが上昇して、新規参入が困難になる可能性が高い。」というのが山本氏の結論である。

 そして山本氏は最後にこう結論付ける。
 「結局、すぐにも原発抜きで電力供給を実現する魔法は存在しないということだ。中長期には、送電線網の増強を図りながら再生可能エネルギーの導入を増やすしか方法はないだろう。欧州と異なり、電力の輸出入が不可能な日本がただちに取れる選択肢は限られている。
 
 電力料金は産業の競争力と、国民生活に直結している。もし、原発の発電量のすべてを火力の電気で賄うとなると、電力料金の大幅値上げは避けられない。産業によっては、エネルギーコストが安い海外に拠点を移す企業も出てくるだろう。また、今200万人を超える生活保護受給者がいることも忘れてはいけない。貧困家庭では電力料金の価格弾性値は極めて低く、電力料金値上げの影響は非常に大きい。
 
 原発はいやだという感情論だけでは、エネルギー問題を論じることはできない。エネルギーコスト、産業の競争力、国民生活への影響も考慮しながら、エネルギー供給の面から解決策を見つけていくしかない。データに基づいて冷静に議論したい。」

 さて、ここから山本氏のインチキを見て行こう。
 
 今年の最大電力需要を5500万kW。これに関しては山本氏も異存はないらしい。彼が心配しているのは広瀬氏が言及していない来年以降の話だ。確かに2007年~2009年の統計においても夏場の瞬間最大電力消費が5500万kWを上回っている時間が数時間あり、瞬間最大時6200万kWを叩きだしている時もある。しかし今夏の企業が行っているような稼動日の土・日へのシフトや、一般家庭でも「協力」させられている「15%節電」継続して行えば夏場の高々数時間の最大消費量を常に維持する必要は全くない。復興が本格化すると筆者がする来年以降も今年同様の対応を取れば済む話である。家庭の「節電対応」も急速に進んでいる。高電力消費の代表格であるエアコンでさえここ10年で40%の省エネ化が進んでおり、この傾向は更に加速するだろう。

 さらに最大電力需要の増加傾向そのものが、東電がオール電化キャンペーンにより意図的に作り出してきたものである。東電管内のオール電化住宅は現在約80万戸あり、IHクッキングヒーター一つとっても一口当たり2.5kWの電力を消費する。電力ピークの開始となる昼食時に各家庭が3口あるいは2口のヒーターを一度に使えば(3口及び2口の比率が半々と仮定しても)それだけで、420万kWの電力消費となる。これはオール電化された住宅のみを対象とした試算なので実際の需要はもっと大きいだろう。家庭においてもエネルギー供給ルートを一つに頼るの危険である。電力を失えば調理すら出来なくなってしまう。家庭においてもエネルギー供給ルートもリスクを分散化し、かっての様にガスによる調理器具を利用すれば、今年の最大電力需要である5500万kWを越える日は殆ど無くなるだろう(実際2009年においては、リーマンシショックの影響もあり5500万kWを越えた日は0日だった)。
 
 いずれにせよ、東電が自らの既得権益を維持せんがために莫大な広告料を使用して半ば押し付けられてきた「電気漬け」のライフスタイルを見直す絶好のチャンスだろう。
 
 また山本氏が「鬼の首を取った」かのように指摘する「設備能力と実際に可能な発電量は異なる」点に関しては原発は、水力、火力に遠く及ばない。東電の原発に発電設備量は1730万kWに対して現在稼働中の原発の発電量は491万kWで、稼動率から言えば28%、水力発電の3分の1でしかない。このような不安定な発電設備に莫大な金額を投資するより、既存の火力発電所を熱変換効率のいいLNG発電に変換していく方がよほどコスト的にも建設工期の観点から見ても理に適った対応ではないだろうか。
 
 更に山本氏が指摘する東電が他社から貰い受ける卸電力の数値には東電の発表している資料を根拠にしてもウソと誤魔化しがある。東電の資料(2010年度計画)によれば、東電が購入している他社の原発による発電量は「日本原子力発電」の88万kWのみであり、これも現在止まっている。
 
 最後に山本氏が広瀬氏の持論としてもっともポジティブに展開している「発送電分離」に対する反論の問題性を見てみよう。広瀬氏は資源エネルギー庁が公表している産業界の保有する自家発電6000万kWを緊急時のバックアップとして位置づけている。先の夏場の瞬間最大電力消費が東電の原発抜きで供給できる発電量を越えた場合のバックアップとしてだ。更に進んで広瀬氏は「発送電分離」が進めば、こうした余剰自家発電能力を持った企業が発電企業としての参入が進み、電力価格の低下も期待できるとしている。これに関して山本氏は、自家発電している企業体あるいは新規の発電を行う企業体の新規参入を難しくしている点、東電が発電・送配電を独占せんがために参入障壁を高くしていることについては何も言及せずに「総括原価主義」の優位性を述べ、根拠も無しに「発送電を分離すると、逆に送電コストが上昇して、新規参入が困難になる可能性が高い」と断言する。しかし実際には「発送電分離」を実施した米・カリフォルニア州では競争原理により電力価格のかなりの低下が見られた。確かに米・カリフォルニア州では、それが要因となって需要と供給がアンバランスとなり、更には送電システムの管理・計画的更新がおろそかにされたため大規模停電を一度引き起こしたが、日本であれば国内全ての電力会社の送配電網を何らかの形で公共事業化し(東電の賠償スキームとも深く関わってくるであろう)、米・カリフォルニア州の大規模停電時とは比較にならないほど進んだスマートグリッド技術を利用をすれば、そうしたことも防げるだろう。これは基本的に技術的問題では無く法整備の問題でしかない。

 更に続けて山本氏は言う「電力料金は産業の競争力と、国民生活に直結している。もし、原発の発電量のすべてを火力の電気で賄うとなると、電力料金の大幅値上げは避けられない。産業によっては、エネルギーコストが安い海外に拠点を移す企業も出てくるだろう。また、今200万人を超える生活保護受給者がいることも忘れてはいけない。貧困家庭では電力料金の価格弾性値は極めて低く、電力料金値上げの影響は非常に大きい。」と。山本氏には今回の福島第一原発の事故でその賠償スキームを保障する財源として「消費税の値上げ」、あるいは山本氏が優位とする「総括原価主義」の適用により被害を受けた国民がその損害補償を自らが支払う電気料金により賄う、というとんでもない論議が為されている事に関しては考慮の埒外であるらしい。

 山本氏の主張は一時が万事この調子である。「原発は必要」という前提、目論見からは「エネルギー問題を論じることはできない。エネルギーコスト、産業の競争力、国民生活への影響も考慮しながら、エネルギー供給の面から解決策を見つけていくしかない。データに基づいて冷静に議論したい。」

2011年7月27日 (水) 衆議院厚生労働委員会「放射線の健康への影響」参考人説明より 児玉龍彦 氏


あまりにも次の動画で話されている児玉先生の話が素晴らしいので、全文書き起こしてしまいました。

2011年7月27日 (水) 衆議院厚生労働委員会「放射線の健康への影響」参考人説明より

参考人
東京大学先端科学技術研修センター教授
東京大学アイソトープ総合センター長

児玉 龍彦

私は東京大学アイソトープ総合センター長の児玉ですが、3月15日に大変に驚愕いたしました。私共東京大学には27か所のアイソトープセンターがあり、放射線の防護とその除染などの責任を負っております。それで私自身は内科の医者でして、東大病院の放射線施設の除染などに、数十年関わっております。

3月15日に、まずここの図にちょっと書いてあるのですが、我々最初にまず午前9時頃、東海村で5マイクロシーベルトと云う線量を経験しまして、それを第10条通報という文科省に直ちに通報いたしました。その後東京で、0.5マイクロシーベルトを越えるその線量が検出されました。これは一過性に下がりまして、次に3月21日に東京で雨が降り、0.2マイクロシーベルト等の線量が降下し、これが今日に至るまで高い線量の原因になっていると思っています。

それでこの時に、枝野官房長官が「差し当たり健康に問題はない」と云う事を仰いましたが、私はその時に実際にこれは大変な事になると思いました。何故かと云うと、現行の放射線の障害防止法と云うのは高い線量の放射性物質が少し在るものを処理する事を前提にしております。この時は、総量はあまり問題では無くて個々の濃度が問題になります。ところが、今回の福島原発の事故と云うのは100キロメートル圏で5マイクロシーベルト、200キロメートル圏で0.5マイクロシーベルト、更にそれを越えて、足柄から静岡のお茶まで及んでいると云う事は、今日全ての皆さんがご存知の通りであります。

我々が放射線障害を見る時には総量を見ます。それでは東京電力と政府は一体今回の福島原発の総量がどれ位であるか、ハッキリした報告は全くされておりません。そこで私共はアイソトープセンターの色々な知識を元に計算してみますと、まず熱量からの計算では広島原爆の29.6個分に相当するものが露出しております。ウラン換算では20個分のものが露出していると換算されます。更に恐るべきことにはこれまでの知見で、原爆による放射線の残存量と、原発から放出されたものの放射線の残存量は、1年経って原爆が1000分の1程度に低下するになるのに対して、原発からの放射性汚染物は10分の1程度にしかならない。つまり、今回の福島原発の問題はチェルノブイリと同様、原爆数十個分に相当する量と、原爆汚染よりもずっと大量の残存物を放出したと云う事がまず考える前提になります。

そうしますと、我々システム生物学と云うシステム論的にものを見るやり方でやってるんですが、現行の総量が少ない場合には、ある人にかかる濃度だけを見ればいいです。しかしながら総量が非常に厖大にありますと、これは粒子です。粒子の拡散と云うのは非線形と云う科学になりまして、我々流体力学の計算では最も難しい事になりますが、核燃料と云うのは砂粒みたいなものが合成樹脂みたいな物の中に埋め込まれています。これがメルトダウンして放出するとなると、細かい粒子が沢山放出されるようになります。そうしたものが出てまいりますと、どう云う事が起こるかと云うのが今回の稲藁の問題です。例えば岩手の藤沢町では稲藁57,000べクレル/Kg、宮城県の大崎17,000ベクレル/kg、南相馬市106,000ベクレル/kg、白河市97,000ベクレル/kg、岩手64,000ベクレル/kgと云う事で、この数値と云うのは決して同心円状にもいかない、何処でどういうふうに落ちているかは、その時の天候、それからその物質が例えば水を吸い上げたかどうか、それで今回の場合も私南相馬、毎週末700キロメートル行って、東大のアイソトープセンター、現在まで7回の除染をやっておりますが、南相馬に最初に行った時は一台のNaIカウンターしかありません。

農林省が通達を出したと云う3月19日には食糧も、水も、ガソリンも尽きようとして、南相馬市長が痛切な訴えをWebに流したのは広く知られているところであります。そのような事態の中で通達1枚出しても誰も見ることが出来ないし、誰も知る事が出来ません。稲藁がそのような危険な状態にあるということは、全く農家は認識されていない。農家は飼料を外国から買って、何十万という負担を負って、更に牛にやる水は実際に自分達と同じ地下水を与える様にその日から変えています。そうすると、我々が見るのは何をやらなければいけないかと云うと、まず汚染地で、徹底した測定が出来るようにするということを保障しなくてはいけません。我々が5月下旬に行った時、先ほど申し上げた様に1台しか南相馬に無かったと云うけど、実際には米軍から20台の個人線量計が来ていました。しかしその英文の解説書を市役所の教育委員会で判んなくて、我々が行って教えてあげて、実際に使いだして初めて20個の測定が出来るようになっている。これが現地の状況です。そして先ほどから食品検査と云われてますが、ゲルマニウム・カウンターと云うのではなしに、今日ではもっとイメージングベースの測定器と云うのが遥かに沢山半導体で開発されています。何故政府はそれを全面的に応用してやろうとして全国に作る為にお金を使わないのか、3ヶ月経ってそのようなことが全く行われていない事に、私は満身の怒りを表明します。

第二番目です。私の専門は、所謂小渕総理の時から内閣府の抗体医薬品の責任者でして、今日では最先端研究支援というので30億円を掛けて抗体医薬品にアイソトープを付けて、癌の治療にやる、即ち人間の体の中にアイソトープを打ち込むという仕事が私の仕事ですから、内部被曝問題に関して一番必死に研究しております。そこで、内部被曝がどのように起きるかという問題を説明させていただきます。

内部被曝というものの一番大きい問題は癌です。癌が何故起こるかと云うとDNAの切断を行います。但しご存知の通り、DNAと云うのは二重螺旋ですから、二重螺旋の時は非常に安定的。これが細胞分裂する時は、二重螺旋が一本になって、2倍になり4本になります。この過程の処がもの凄く危険です。その為に妊婦の胎児、それから幼い子供、成長期の増殖が盛んな細胞に対しては放射線障害は非常な危険を持ちます。更に大人においても、増殖が盛んな細胞、例えば放射性物質を与えると、髪の毛、それから貧血、それから腸管臓器のこれらは何れも増殖・分裂が盛んな細胞でして、そういうところが放射線障害のイロハになります。

それで、私共が内部に与えた場合に具体的に起こるので、知っている事例を上げます。これは実際にはですね一つの遺伝子の変異では癌は起こりません。最初の放射線のヒットの起こった後に、もう一個の別の要因で癌の異変が起こるという事、これはドライバーミューテーションとかパッセンジャーミューテーションとか細かい事になりますが、それは参考の文献を後ろに付けてありますので、それは後でチェルノブイリの場合や、セシウムの場合をあげてありますのでそれを見ていただきたい。

まず一番有名なのはアルファー線です。プルトニウムを飲んでも大丈夫と言う東大教授が居るというのを聞いて私、ビックリしましたが、アルファー線は最も危険な物質であります。それはトロトラスト肝障害というので私ども肝臓医はすごくよく知っております。ようするに内部被曝というのは先程から一般的に何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうものは全く意味がありません。

I131(ヨウ素の同位体)は甲状腺に集まります。トロトラストは肝臓に集まります。セシウムは尿管上皮、膀胱に集まります。これらの体内の集積点をみなければ全身をいくらホールボディースキャンやっても全く意味がありません。トロトラストの場合の、このちょっと小さい数字なんで大きい方は後で見て欲しいんですが、これは実際に、トロトラストというのは造影剤でして、1890年からドイツで用いられ1930年ごろからは日本でも用いられましたが、その後20~30年経つと、肝臓癌が25%から30%に起こるという事がわかってまいりました。

最初のが出てくるまで20年というのは何故かというと、最初にこのトロトラスト、アルファー線核種なんですが、アルファー線は近隣の細胞を傷害します。その時に一番やられるのはP53という遺伝子です。我々は今ゲノム科学というので、人の遺伝子全部配列を知っていますが、一人の人間と別の人間は大体300万箇所違います。ですから人間同じとしてやるような処理は、今日では全く意味がありません。いわゆるパーソナルライフ・メディスンと言われるやり方で、放射線の内部障害をみる時にも、どの遺伝子がやられてどういう風な変化が起こっているか、という事をみるということが原則的な考え方として大事です。トロトラストの場合は、第一段階ではP53の遺伝子がやられて、それに次ぐ第二第三の変異が起こるのが20~30年後かかり、そこで肝臓癌や白血病が起こってくるという事が証明されております。

次にヨウ素131。これヨウ素はみなさんご存じのとおり甲状腺に集まりますが、甲状腺への集積は成長期の甲状腺形成期が最も特徴的であり、小児におこります。しかしながら1991年に、最初ウクライナの学者が「甲状腺癌が多発している」という時に、日本やアメリカの研究者はネイチャーに「これは因果関係が分からない」ということを投稿しております。何故そう言ったかというと、1986年以前のデータがないから、統計学的に優位だという事を言えないということです。しかし統計学的に優位だという事がわかったのは、先程も長瀧先生からお話しがありましたが20年後です。20年後に何がわかったかというと、86年から起こったピークが消えたために、これは過去のデータが無くても因果関係があるという事がエビデンスになった。

所謂、ですから疫学的証明というのは非常に難しくて、全部の事例が終わるまで大体証明できないです。ですから今我々に求められている「子どもを守る」という観点からは全く違った方法が求められます。そこで今行われているのは、ここには国立のバイオアッセイ研究センターという化学物質の効果をみる福島昭治先生という方が、ずっとチェルノブイリの尿路系に集まる物を検討されていまして、福島先生たちがウクライナの医師と相談・集めて、500例以上の前立腺肥大の時に手術をしますと膀胱もとれてきます。これを見まして検索したところ、高濃度汚染地区、尿中に6ベクレル/リットルという微量ですが、その地域ではP53の変異が非常に増えていて、しかも、その増殖性の前癌状態、我々からみますとP38というMAPキナーゼとNF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー)というシグナルが活性化されているんですが、それによる増殖性の膀胱炎というのが必発でありまして、かなりの率に上皮内の癌ができているという事が報告されております。それでこの量に愕然といたしましたのは、福島の母親の母乳から2~13ベクレル、7名で検出されているという事が既に報告されている事であります。

次のページお願いします。

我々アイソトープ総合センターでは、現在まで毎週700キロメートル、大体一回4人づつの所員を派遣しまして、南相馬市の除染に協力しております。南相馬でも起こっている事は全くそうでして、20キロ、30キロという別け方が全然意味がなくて、その幼稚園毎に、細かく測っていかないと全然駄目です。それで現在20キロから30キロ圏にバスを建てて、1700人の子供が行っていますが、実際には避難、その南相馬で中心地区は海側で、学校の7割で比較的線量は低いです。ところが30キロ以遠の飯館村に近い方の学校にスクールバスで毎日100万円かけて子どもが強制的に移動させられています。このような事態は一刻も早く辞めさせてください。今その一番の障害になっているのは、強制避難でないと保証しないと、参議院のこの前の委員会で、当時の東電の清水社長と海江田経済産業大臣がそういう答弁を行っていますが、これは分けて下さい。保障問題と、この線引きの問題と、子どもの問題は直ちに分けて下さい。子供を守るために全力を尽くすことをぜひお願いします。

それからもう一つは現地でやっていますと、除染というものの緊急避難的除染と、恒久的除染をハッキリ別けて考えていただきたい。緊急避難的除染を我々もかなりやっております。例えばここの図表に出ておりますこの滑り台の下、滑り台の下は小さい子が手をつくところですが、この滑り台に雨水がザーッと流れてきますと毎回濃縮します。右側と左側とズレがあって片側に集まっていますと、平均線量1マイクロのところだと10マイクロ以上の線量が出てきます。それで、こういうところの除染は緊急にどんどんやらなくてはいけません。

それからさまざまな苔が生えているような雨どいの下、ここも実際に子どもが手をついたりしているところなのですが、そう云うところはたとえば高圧洗浄機を持って行って苔を払うと、2マイクロシーベルトが0.5マイクロシーベルトまでになります。だけれども、0.5マイクロシーベルト以下にするのは非常に難しいです。それは建物全て、樹木全て、地域全てが汚染されていますと空間線量として、1ヶ所だけ洗っても全体をやる事は非常に難しいです。ですから除染を本当にやるという時に、一体どれ位の問題がかかりどれ位のコストがかかるかという事を、イタイイタイ病の一例で挙げますと、カドミウム汚染地域、だいたい3000ヘクタールなんですが、そのうち1500ヘクタールまで現在除染の国費が8000億円投入されております。もしこの1000倍という事になれば、一体どの位の国費の投入が必要になるのか。

ですから私は4つの事を緊急に提案したいと思います。

第1番目に、国策として、食品・土壌・水を、日本が持っているですね、最新鋭のイメージングなどを用いた機器を用いて、もう、半導体のイメージ化は簡単です。イメージ化にして、流れ作業にして、シャットしていって、やるということでの最新鋭の機器を投入して抜本的に改善して下さい。これは今の日本の科学技術力で全く可能です。

2番目。緊急に子供の被曝を減少させるために、新しい法律を制定して下さい。私のやっている、現在やっているのは全て法律違反です。現在の障害防止法では各施設で扱える放射線量、核種等は決められています。東大の27のいろんなセンターを動員して現在南相馬の支援を行っていますが、多くの施設はセシウムの使用権限など得ておりません。車で運搬するのも違反です。しかしながら、お母さんや先生達に高線量の物を渡してくる訳にもいきませんから、今の東大の除染では全てのものをドラム缶に詰めて東京に持って帰って来ております。受け入れも法律違反、全て法律違反です。

このような状態を放置しているのは国会の責任であります。全国には、例えば国立大学のアイソトープセンターはゲルマニウムを始め、最新鋭の機種を持っているところは沢山あります。そういうところが手足を縛られたままで、どうやって国民の総力を挙げて子どもが守れるのでしょうか。これは国会の完全なる怠慢であります。

第3番目。国策として土壌汚染を除染する技術を民間の力を結集して下さい。これは、例えば東レだとかクリタだとかさまざまな化学メーカー、千代田テクノとかアトックスというような放射線除去メーカー、それから竹中工務店とか様々なところは、放射線の除染などに対してさまざまなノウハウを持っています。こういうものを結集して現地に直ちに除染研究センターを作って、実際に何10兆円という金額がかかるのを、今だと利権がらみの公共事業になりかねない危惧を私はすごく持っております。国の財政事情を考えたらそんな余裕は一瞬もありません。どうやって除染を本当にやるか、7万人の人が自宅を離れてさまよっている時に国会は一体何をやっているのですか。

以上です。

注釈

NaIカウンター:NaI(Tl)シンチレーション検出器。ヨウ化ナトリウム(NaI)の結晶(タリウム含む)を検出器として利用したもので、原理は、放射線が結晶のなかで発する蛍光を測定する放射線測定器。主としてガンマ線の測定に用いられる。

MAPキナーゼ:Mitogen-activated protein kinases(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ;EC 2.7.11.24)の略。細胞をマイトジェン(細胞増殖促進物質の総称)で処理した場合に活性化したことからこの名がついた。MAPKKKK => MAPKKK => MAPKK => MAPK (これは一般的な表記法でそれぞれKはキナーゼを意味するが、実際には色々な種類がある)というカスケードを形成して順次活性化され、最終的に転写因子をリン酸化して細胞周期や増殖を制御する。

NF-κB:核内因子κB、nuclear factor-kappa B)は転写因子として働くタンパク質複合体である。NFκBは1986年にノーベル生理学医学賞受賞者であるデビッド・ボルティモアらにより発見された。免疫グロブリンκ鎖遺伝子のエンハンサー領域に結合するタンパク質として発見され、当初はB細胞に特異的なものと考えられていたが、後に動物のほとんど全ての細胞に発現していることが明らかとなった。高等生物に限らずショウジョウバエやウニなどの無脊椎動物の細胞においてもNF-κBが発現している。