山本隆三(富士常葉大学教授)『「原発なしで電力は賄える』」は本当かへの反論


 山本隆三(富士常葉大学教授)なる学者が7月6日付けの”nikkei BP net”で「『「原発なしで電力は賄える』」は本当か」というタイトルで、「週刊朝日」6月10日掲載の広瀬隆氏『「原発全廃」でも電力不足は起きない!』への反論を試みている。

http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110704/106784/
 
 発売後一ヶ月も経って今頃何故と思いながら読み進めたが、読み終えて漸くその疑問は氷解した。それだけ先の広瀬氏の主張が浸透し、東電を先頭とする電力各社の「原発が無いと電気が足りなくなる」というキャンペーンの欺瞞性が社会的に認知され始めた事に対する「原発推進派」の焦りに満ちた反論がこれである。
 
 簡単に内容を見てみよう。

・電力需要はどこまで減らせるか
東電が今年の最大電力需要を5500万kWとしていることから、家庭・企業の節電対応もありこれを越える事は無いだろうということは、東電資料が根拠となっているので山本氏も同意している。その上で復興が進む来年以降は6000万kWを越えるとする。

・設備があっても100%の供給はできない
その上で復興が進み電力需要が増す来年以降は、原発以外の水力、火力などの既存の代替手段によってはその需要を満たす事は出来ない、何故なら設備能力と実際に可能な発電量は異なるからと結論付ける。

・卸電力に含まれる原子力の発電
更に山本氏は東電がピーク時に他社から貰い受ける卸電力の中約20%が他社の「原発」による発電によるもので、結論として火力・水力・他社電力の全てにおいて広瀬氏の主張が成立しないかとがわかったと結んでいる。

・発送電分離で供給は増えるのか
更に続けて山本氏は広瀬氏のポジティブな主張としている「発送電分離」に対しても、反論らしき事を試みている。「既に送電については託送制度が導入され、競争力のあるコストで発電できる事業者は卸供給事業などに参入しているだろう。発送電を分離すれば、送電コストが下がるから、新規参入が増えるとの主張があるかもしれないが、発送電を分離すると、逆に送電コストが上昇して、新規参入が困難になる可能性が高い。」というのが山本氏の結論である。

 そして山本氏は最後にこう結論付ける。
 「結局、すぐにも原発抜きで電力供給を実現する魔法は存在しないということだ。中長期には、送電線網の増強を図りながら再生可能エネルギーの導入を増やすしか方法はないだろう。欧州と異なり、電力の輸出入が不可能な日本がただちに取れる選択肢は限られている。
 
 電力料金は産業の競争力と、国民生活に直結している。もし、原発の発電量のすべてを火力の電気で賄うとなると、電力料金の大幅値上げは避けられない。産業によっては、エネルギーコストが安い海外に拠点を移す企業も出てくるだろう。また、今200万人を超える生活保護受給者がいることも忘れてはいけない。貧困家庭では電力料金の価格弾性値は極めて低く、電力料金値上げの影響は非常に大きい。
 
 原発はいやだという感情論だけでは、エネルギー問題を論じることはできない。エネルギーコスト、産業の競争力、国民生活への影響も考慮しながら、エネルギー供給の面から解決策を見つけていくしかない。データに基づいて冷静に議論したい。」

 さて、ここから山本氏のインチキを見て行こう。
 
 今年の最大電力需要を5500万kW。これに関しては山本氏も異存はないらしい。彼が心配しているのは広瀬氏が言及していない来年以降の話だ。確かに2007年~2009年の統計においても夏場の瞬間最大電力消費が5500万kWを上回っている時間が数時間あり、瞬間最大時6200万kWを叩きだしている時もある。しかし今夏の企業が行っているような稼動日の土・日へのシフトや、一般家庭でも「協力」させられている「15%節電」継続して行えば夏場の高々数時間の最大消費量を常に維持する必要は全くない。復興が本格化すると筆者がする来年以降も今年同様の対応を取れば済む話である。家庭の「節電対応」も急速に進んでいる。高電力消費の代表格であるエアコンでさえここ10年で40%の省エネ化が進んでおり、この傾向は更に加速するだろう。

 さらに最大電力需要の増加傾向そのものが、東電がオール電化キャンペーンにより意図的に作り出してきたものである。東電管内のオール電化住宅は現在約80万戸あり、IHクッキングヒーター一つとっても一口当たり2.5kWの電力を消費する。電力ピークの開始となる昼食時に各家庭が3口あるいは2口のヒーターを一度に使えば(3口及び2口の比率が半々と仮定しても)それだけで、420万kWの電力消費となる。これはオール電化された住宅のみを対象とした試算なので実際の需要はもっと大きいだろう。家庭においてもエネルギー供給ルートを一つに頼るの危険である。電力を失えば調理すら出来なくなってしまう。家庭においてもエネルギー供給ルートもリスクを分散化し、かっての様にガスによる調理器具を利用すれば、今年の最大電力需要である5500万kWを越える日は殆ど無くなるだろう(実際2009年においては、リーマンシショックの影響もあり5500万kWを越えた日は0日だった)。
 
 いずれにせよ、東電が自らの既得権益を維持せんがために莫大な広告料を使用して半ば押し付けられてきた「電気漬け」のライフスタイルを見直す絶好のチャンスだろう。
 
 また山本氏が「鬼の首を取った」かのように指摘する「設備能力と実際に可能な発電量は異なる」点に関しては原発は、水力、火力に遠く及ばない。東電の原発に発電設備量は1730万kWに対して現在稼働中の原発の発電量は491万kWで、稼動率から言えば28%、水力発電の3分の1でしかない。このような不安定な発電設備に莫大な金額を投資するより、既存の火力発電所を熱変換効率のいいLNG発電に変換していく方がよほどコスト的にも建設工期の観点から見ても理に適った対応ではないだろうか。
 
 更に山本氏が指摘する東電が他社から貰い受ける卸電力の数値には東電の発表している資料を根拠にしてもウソと誤魔化しがある。東電の資料(2010年度計画)によれば、東電が購入している他社の原発による発電量は「日本原子力発電」の88万kWのみであり、これも現在止まっている。
 
 最後に山本氏が広瀬氏の持論としてもっともポジティブに展開している「発送電分離」に対する反論の問題性を見てみよう。広瀬氏は資源エネルギー庁が公表している産業界の保有する自家発電6000万kWを緊急時のバックアップとして位置づけている。先の夏場の瞬間最大電力消費が東電の原発抜きで供給できる発電量を越えた場合のバックアップとしてだ。更に進んで広瀬氏は「発送電分離」が進めば、こうした余剰自家発電能力を持った企業が発電企業としての参入が進み、電力価格の低下も期待できるとしている。これに関して山本氏は、自家発電している企業体あるいは新規の発電を行う企業体の新規参入を難しくしている点、東電が発電・送配電を独占せんがために参入障壁を高くしていることについては何も言及せずに「総括原価主義」の優位性を述べ、根拠も無しに「発送電を分離すると、逆に送電コストが上昇して、新規参入が困難になる可能性が高い」と断言する。しかし実際には「発送電分離」を実施した米・カリフォルニア州では競争原理により電力価格のかなりの低下が見られた。確かに米・カリフォルニア州では、それが要因となって需要と供給がアンバランスとなり、更には送電システムの管理・計画的更新がおろそかにされたため大規模停電を一度引き起こしたが、日本であれば国内全ての電力会社の送配電網を何らかの形で公共事業化し(東電の賠償スキームとも深く関わってくるであろう)、米・カリフォルニア州の大規模停電時とは比較にならないほど進んだスマートグリッド技術を利用をすれば、そうしたことも防げるだろう。これは基本的に技術的問題では無く法整備の問題でしかない。

 更に続けて山本氏は言う「電力料金は産業の競争力と、国民生活に直結している。もし、原発の発電量のすべてを火力の電気で賄うとなると、電力料金の大幅値上げは避けられない。産業によっては、エネルギーコストが安い海外に拠点を移す企業も出てくるだろう。また、今200万人を超える生活保護受給者がいることも忘れてはいけない。貧困家庭では電力料金の価格弾性値は極めて低く、電力料金値上げの影響は非常に大きい。」と。山本氏には今回の福島第一原発の事故でその賠償スキームを保障する財源として「消費税の値上げ」、あるいは山本氏が優位とする「総括原価主義」の適用により被害を受けた国民がその損害補償を自らが支払う電気料金により賄う、というとんでもない論議が為されている事に関しては考慮の埒外であるらしい。

 山本氏の主張は一時が万事この調子である。「原発は必要」という前提、目論見からは「エネルギー問題を論じることはできない。エネルギーコスト、産業の競争力、国民生活への影響も考慮しながら、エネルギー供給の面から解決策を見つけていくしかない。データに基づいて冷静に議論したい。」

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投稿日: 2011年7月29日 | カテゴリー: 反原発 | パーマリンク 2件のコメント.

  1. 反論するなら、もうちょっとよく読んでからにした方がいいですよ。
    それに最初から氏の意図を決めつけている時点で、信頼性を損なっています。

  2. 本件の「山本氏批判」は妥当と思います。既に3年余経過後なので今更とも思うが、山本氏の8/82014付「里山資本主義批判」(Wedge Infinity 掲載)を読んで、本件を再論したくなった次第(尚、里山批判には格別異論なし)。
    金融マンとして延べ15年ドイツ勤務した経験からも、広瀬隆氏の1980年代末当時の西独電力業界と原子力発電に関するレポートの価値は、絶賛に値する(集英社文庫・恐怖の放射性廃棄物1999。参照)。これに比べドイツ勢の忠告を無視したわが電力業界や官学原子力アカデミズム、重電メーカー(とりわけ訪独チームでこの助言を聴取し黙殺した三菱重工 ・同書P.248)など、関係者の『利益優先』姿勢は、フクシマ後を含めて国民に対し破廉恥と断ずるほかない。
    山本氏も、商社OBにしては原発の核心『トイレなきマンション』問題への感度が悪すぎるのが不思議です。小生は長年大手商社への金融を担当し、商者マンの展望力と鋭敏な感覚に敬意を払ってきたので、遅ればせながら参考までに原発支持論の動機・背景などを承知したいのです。なお小生も官学OB(法文系)ですが、官僚や理系(特に工学部OB)への格別の意識はありません。 (汨 羅)

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